住宅

シ-クエンス by奥村

「初めからタネ証をするな。」

建築家を目指しはじめた頃に師匠から教えられた言葉です。

 

建築にはシ-クエンスという考え方があります。何処かにたどり着くまでの過程をデザインするという考え方です。

例えば住宅の場合、道路からいきなり玄関に入るよりある程度の通路(アプロ-チ)がある方が、建物に引き込まれるワクワク感を玄関にたどり着くまでの過程で感じることができます。つまり玄関をわざわざ一目できないようにする。「初めからタネ証をしない。」という訳です。

玄関に入ってからも同様に、玄関の正面にリビングの扉が見えるより、正面の壁には飾り棚があって、そこに素敵な花瓶に花が生けてあり、そこを直角に曲がった先にリビングがある方が抑揚感を持てて良いと思います。

話は変わりますが玄関からトイレの扉が見えるのはNGですよ。

 

私はその手法をできるだけ取り入れます。弊社の事務所も道路から直接玄関が見えないよう設計しました。わざわざアプロ-チを長くして木立の中を潜って180度まわると玄関が見えてきます。そのおかげで何処が入り口なのか迷われる方が多いですが、その気持ちにさせることがシ-クエンスのデザインです。

ところで日本園に使われる飛び石は土を踏まないで歩くために敷かれるものですが、飛び石をつたうとどうしても下方へ注意が向きます。それによって野に咲く花やコケなどの自然に気付くことができるのです。単に移動するにも、こうした楽しみ方を演出することが暮らしを豊かにするためにはとても大切なことだと思います。

 

実際の例をあげますと、垂井の家では玄関を入ると天井が低くて薄暗い長さ4mの廊下があります。その廊下の奥にある格子戸をあけると一転して天井が高くとても明るい玄関ホ-ルにたどり着きます。この「薄暗い廊下」という部屋は余分なスペ-スと言えばそれまでですが、毎日必ず通るこのアプロ-チが生活にひとつの魅力を与えていると思います。

 

導線を効率的にすることはもちろん大切ですが、不効率の中に心の豊かさを感じることができるのかもしれません。

 

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